『アクシデント/意外』の見どころ

『アクシデント/意外』は、『軍鶏』や『ドッグ・バイト・ドッグ』で監督を務めたソイ・チェンがメガホンを持った映画です。
また、映画製作には香港ノワールという一大ジャンルを築いたジョニー・トーが加わっており、香港映画界だけでなく、ほかの映画界でも注目されています。
主演は香港俳優のルイス・クーです。元モデルの端正な顔立ちとスタイル、圧倒的な演技力によってこの映画を彩ります。

このアクシデントのあらすじをネタバレしない程度に、少し紹介しましょう。

裏社会のボスが、不幸な事故「アクシデント」によって街中で死んでしまう…。
その事故は偶然に起こった不幸だったと思われたが、実は暗殺グループが仕組んだ計画的な「アクシデント」だった。
不幸な事故を装いターゲットを暗殺する手口を使うプロたちが、次に狙うターゲットは、車椅子に乗った老人。
グループはアクシデントを装ってその老人を暗殺することに成功。だが、仲間の一人が「不幸な事故」で死んでしまう。
そこから、暗殺グループ内で疑心暗鬼が広がっていき…といったストーリー展開です。

主演のルイス・クーは、抜群の演技力で観客である私たちをも翻弄します。なおこの作品で香港アカデミー賞を受賞したのはヒロイン役のミシェル・イェでした。ルイス・クーは長年その演技技術を評価されていましたが、2018年の『SPL 狼たちの処刑台』における演技で香港アカデミー賞の最優秀主演男優賞を獲得しています。

製作がジョニー・トーということもあって、香港映画でよくあるド派手なアクションを期待したかもしれませんが、このアクシデントの映画ジャンルは、サスペンス・スリラーです。
疑心暗鬼による思い込みが仇となり暗殺グループが崩壊していくわけですが、疑心暗鬼による凶行は、なにも映画のなかだけではありません。私はこの作品を見たとき、怖い話でよく聞く「雪山の遭難」を思い出してしまいました。

この映画は人間の猜疑心をかなり掘り下げて描いています。 映画館で見てよかった、となる映画でした。

サスペンス・スリラーの醍醐味

本作『アクシデント』はサスペンス・スリラーというジャンルに分けることができる映画です。
このサスペンス・スリラーは、ホラーやミステリーといった映画ジャンルと同じようにくくられてしまうことがありますが、これらは別ものです。
ミステリーは謎解きであり、問題には解答が用意されています。ホラーは映画を観ている人を驚かせる、恐怖させるものです。
サスペンス・スリラーは観客に緊張感とスリルを与えます。日本でもサスペンス劇場などのドラマやサスペンス物の映画が人気ですが、 香港映画で、サスペンス・スリラーのイメージがあまり浮かばない人は、物足りなさを感じるかもしれません。
しかし、この物足りなさを感じるのも仕方のない。国や人種、価値観、生活背景などによって、物事の捉え方や人の感情は違ってきます。
たとえば、日本のホラーとアメリカのホラーが違うとよく言われることがあるように、サスペンス映画でも作られた国によって緊張の種類や感じ方が違うことがあります。